【映画】『アド・アストラ』:孤独も恐怖も好奇心も捨去り潰した単調ドキュメンタリー。
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※ネタバレなし。
※画像は予告映像のキャプチャです。
2019年9月20日鑑賞
アド・アストラ
Ad Astra
【評価:2.3/5.0】
【一言】
「凄い」けど「つまらない」
宇宙を舞台にしたSF映画としては超凄い!
しかし宇宙映画の魅力を全て潰した作品。
孤独も恐怖もない単調なドキュメンタリー。
ブラピ演じる宇宙飛行士の“伝記”的な味気なさ。
【Twitter140文字感想】
【 #アド・アストラ 】
— ArA-1 (@1_ARA_1) 2019年9月20日
消息不明の父を探し、太陽系外縁へ。
感情を制御し心の内で叫ぶ。
冷静と情動を込めるブラピの名演技!
物語は単調な伝記ドキュメンタリー。
あまりにもパーソナルな部分に寄り過ぎて、壮大な宇宙観と《孤独》が完全に薄まり潰れてしまい勿体無い。
映像や機器類はリアル! pic.twitter.com/CdnqmNstsn
【目次】
STORY&STAFF
時は近い未来。宇宙飛行士ロイ・マクブライドは、地球外知的生命体の探求に人生を捧げた科学者の
父クリフォードを見て育ち、自身も宇宙飛行士の道を選ぶ。
しかし、父は探索に出発してから16年後、太陽系の彼方で行方不明となってしまう。
だが、父は生きていた──ある秘密を抱えながら。
父の謎を追いかけて地球から43億キロ、使命に全身全霊をかけた息子が見たものとは──?
映画公式サイト
予告動画
監督:ジェームズ・グレイ
脚本:ジェームズ・グレイ
制作:プランBエンターテインメント
音楽:マックス・リヒター
キャスト:ブラッド・ピット, トミー・リー・ジョーンズ and more.
上映時間:123分
日本公開:2019年9月20日
配給:
公式サイト
映画の感想
感想外観
ブラッド・ピット主演のSF映画!
原題の「Ad Astra」はラテン語で「星へ」という意味だそう。
8月にはレオナルド・ディカプリオとW主演で共演した『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』が公開されましたし、ブラピ堪能の2019年夏でした!
正直、映画の感想は「つまらない」です。
物語が究極的に魅力なしと感じました。
というのも、描かれるのは感情表現に乏しいロイ少佐(ブラッド・ピット)の淡々としたモノローグだけ。誰もいない宇宙船の中だけで、なんだか彼の伝記を読んでいるような、眠気を誘うものでした。
一方で、宇宙映画としてはリアルで凄かったです!
探査船やロケットの描写、月面基地や探査ローバーの様子、宇宙空間を航行する感情面の映像や、無重力状態での活動など、とてもリアルに描かれていました!
だからこそ、ブラピをクローズアップした点が悔やまれます。
ブラッド・ピット主演『アド・アストラ』特別映像
上述のように、物語に興味を惹く仕掛けが無い点もそうですが、それ以上に気になったのは「意味のないシーンが多すぎる」という印象を抱いた点です。
「太陽系外へ知的生命体と父を探しにいく」という出発点は最高ですが、それとは一切関係の無いシーンが挿入されていて、余計に混乱したし、物語も薄まってしまいました。
ブラッド・ピットの演技は素晴らしかったです!
本作で彼が演じたのは、感情を制御できる宇宙軍のロイ少佐。
表面的には無感情を装いつつも、心の中では混乱や衝撃や恐怖や怒りや悲しみなどの強い感情を燃やしている、そんな様子が伝わってきて、見事でした!
宇宙映画の面白味がない
第一印象は「つまらない」でした。
物語の序盤から既に「あれ?大丈夫?」と感じつつも見進めていく中で、“ストーリー的”な面白さはほとんど皆無でした。
久しぶりに、たった2時間が長く感じた作品です。
最近は『アベンジャーズEG』も『ワンス・アポン~ハリウッド』も共に3時間近い上映時間なのに全く苦を感じなかったのに比べると、やっぱり「つまらなかった」というのがわかります。
物語の面白さが無い上に、描き方も面白くないのが致命的。
物語。
宣伝等での表向きは「宇宙探査」というミッションが全面に押し出されています。確かに映画もそれに沿って進むのですが、他のSFの作品とは決定的に違うのは焦点を当てる内容なのではないでしょうか。
知的生命体を探す『インターステラー』でも、宇宙サバイバルをする『ゼロ・グラビティ』や『オデッセイ』でも、物語の主軸は「どうやって」と「なに」が魅力だと思います。
どうやって探すのか? どうやって生き延びるのか? なにがいるのか? なにがあるのか? こうした「?」が未知の宇宙を舞台にしたSF映画で観客を引きつける魅力であり、物語を突き動かしていく原動力なのだと思います。
映画『ゼロ・グラビティ』予告
一方、本作『アド・アストラ』は「だれ」です。
ブラッド・ピット演じるロイ少佐はどのような人物で、家族との関係はどうで、思考回路はこうで……と非常にパーソナルな部分に焦点が当てられます。
だから、つまらなく感じてしまう。
そこまで個人性に踏み込めば、それは「伝記映画」や「人間ドラマ」に近いし、描かれた人間性が宇宙探査にほとんど無関係だというところが、余計に勿体なかったです。
もちろん作品にもよりますが、私は、SF映画の魅力は「過程と結果」であって、「誰が」という部分は代替可能なところ、重要な部分ではないと考えています。
「孤独と恐怖」を無駄にした宇宙映画
宇宙空間にたった一人。
この「孤独」を生み出せる究極にして最高の舞台が《宇宙》なのだと思います。誰も助けてくれない、しかし一人で生き延びるのは不可能に近い。そんな絶望の状況を作れるのが宇宙空間であり、宇宙船です。
リドリー・スコット監督の『エイリアン』
キャッチコピーは「宇宙では、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない」
これこそが至高だと思います。
「空気が無いから音が伝わらない」と「誰もいない」という、科学性と孤独から襲い来る《恐怖》を見事に表現していて、宇宙SF映画の頂点だと思います。
本作も設定はそれ。
太陽系の外という果てしない彼方へ、一人航海する。
しかし、そこに「孤独」も「恐怖」もありません。
少なくとも、観客は一切感じることはないです。
なぜか?
それはロイ少佐が無感情に近いキャラクターであり、ずっとモノローグを語っているからです。
ある作品に「恐怖には鮮度というものがあります。真の意味での恐怖とは...希望から絶望に切り替わるその瞬間」という台詞があります。
それはフィクションである映画でも同じで、主人公が感じた恐怖や衝撃はスクリーンを通じてダイジェストに観客に伝わるからです。
では、本作はどうか。
主人公は心を制御し、感情を表に出さないようにした徹底的に訓練された軍人。
つまり、主人公が恐怖を感じる描写がないのに、観客がどうやって恐怖を感じるのか、という話です。恐怖なんて強い感情は感染力も強いから劇場で観れば皆んなで怖がれます。でも当の主人公が無感情ではねぇ……。
そして、主人公のモノローグ。
延々と語っています。
自身の感情を抑制するために状況を分析してそれを頭の中で喋ったり、自身の過去の回想を脳内で行ったり。
宇宙空間を表すキーは「静寂」です。
それまで鳴っていたBGMが止まり、劇場内に静寂が訪れた瞬間、観客全員は宇宙空間に漂った感覚に陥ると同時に、言葉にできない孤独感や恐怖感を味わうのです。
実際に、音楽が鳴り止む演出はどの宇宙映画でもみられると思います。大気圏から脱した瞬間や、船外に放り出された時など。
さて、本作。
本作はずっと主人公が語っています。それどころか冷静に状況分析をするので、こちらは驚く暇すらない、と! 大体、「なにかわからない」という未確認性が大切だと思うんですけどね。
色々喋りましたが、「宇宙」という舞台を無駄にしていた部分というのは、非常にもったいないと思いました。
以下は本ペ映像。
こういう、観客に恐怖を与えるようなシーンが盛りだくさんだと面白いんですけどね。
Ad Astra | “Antenna" Clip
この感想を書いた理由は本編でのある台詞が理由です。下のネタバレあり感想で少し触れます。
宇宙映画のリアルな描写
最近の宇宙映画は、描写がリアルで本当に凄いです!
まぁ、実際に行ったことはまだないので、映像資料や書籍とかの情報と比べて、という意味でのリアルですけどね(笑)
個人的に一番楽しかったのは、「月」です。
主人公のロイ少佐が太陽系外縁まで行く足がかりとなるのが米国宇宙軍の「月面基地」なのですが、そこでの諸々が面白かったです!
具体的な内容はネタバレになるので伏せますが、興味ある方は以下の本編動画をご覧いただければ、その魅力が少し分かると思います!
映画『アド・アストラ』本編映像
宇宙船や探査船の描写はリアルでした。
下手なSFガジェットが装備されているわけでもなく、(恐らく)本物に似せて作られているのでしょうね。むしろ、緊急時の対応に関する装備や用意の面がしっかりとしていた点には大いに感心しました!
宇宙映画はやっぱり映画館に限ります。
大画面で、視界いっぱいに星々が瞬く宇宙空間が広がって、なんとも言えぬ音楽がジワッと響くからこそ、雰囲気に飲まれることができるのです!
まぁだから、本作はブラッド・ピットのアップシーンが異様に多かったこともあり、宇宙でも地上でも大して変わらないシーンが多かった点はもったいないし残念でしたけど……。
音楽も良かったと思いますよ!
Ad Astra | “Sounds of Space: Scored by Dev Hynes” Visual
ストーリー上の意味不明シーン
本作は本当に脱線や無駄が多いと感じます。
何度も書くようですが、物語の主軸は「太陽系外縁にいる父を探す」こと。
しかし上述のように、主人公のパーソナルな部分が多いところが物語的な欠陥だと感じました。そして、関係無いシーンも多かったんです。
確かに、映画的には見せ場になります。
単調な作品なので、余計にそのような衝撃や印象深いシーンはあっても問題ないと思います。
しかし、ストーリー的な正統性がなく、盛り上がりのためだけに後付されたようなシーンが何箇所かあり、それは意味不明でした。
具体的な部分も書けないので感想はこれで終わりになりますが、無かったらなかったでつまらないし、でも有ればあったで意味不明で理解に苦しむという、難しい状況ですね……。
ブラピの演技は素晴らしい!
やっぱり、上手い俳優は凄いな、と思います!
違和感のない宇宙飛行士、さすがブラピです!
本作で彼が演じたのは、感情のコントロールができる米国宇宙軍のロイ・マクブライド少佐。彼は十数年前に行方不明となった宇宙飛行士の父を探しに太陽系外縁の海王星付近まで探索の旅にでます。
Ad Astra | "Lima Project" Clip
「感情を排する」という点が見事でした。
表面的にはあたかも感情を抑え込み、冷静で従順な軍人。
しかし、その内部では「困惑」や「怒り」のような感情が渦巻いているのが伝わってきて、その裏と表の差が素晴らしいな、と感じました。
宇宙映画を見ていると、結構、冷静なキャラが多いです。
そもそも宇宙飛行士になった時点で冷静沈着さが求められ、何度も試験たテストを繰り返していたり、研究者上がりのキャラクターもいたりして、比較的冷静な現場ですよね。
その中でも、少し異様な感じの冷静さを保っていたのが、本作のロイ・マクブライドというキャラクターで、それを見事に演じきったのがブラッド・ピットだっでした。
以降、映画本編のネタバレあり
映画の感想
※ネタバレあり
月面基地と救難信号
ネタバレで最初に書きたいのは、この2つ。
月面基地でのアレコレと、火星へ向かう途中の話。
まずは、月面基地。
資源開発の為に基地が発達したというのは理解できますが、それを狙う戦争や略奪盗賊が暗躍している、という設定はどうなんでしょう?
確かに月資源を巡った国家間戦争はわかります。
しかし、盗賊は……。月で商売するにはリスクが大きすぎるし、ましてや米国軍を標的にするのは単なるバカか、背後にロシアの後ろ盾があるかしか考えられません。
道路など月の開発もそこまで進んでいない様子なのに、“敵”がいるというのは微妙な感じがしますね。あと、月面では重力が1/6ですが、基地の人は普通に生活しているんですね(笑)
月面でのチェイス。
確かにあれは面白かったですね。
なにかの映画で似たようなシーンを見たような気がしないでもないですが、探査ローバーでのバトルというのは新しいし、無重力という部分が地上でのカーチェイスにはない面白みを加えていました!
まぁ、物語上の必要性は、また別の話ですけどね。
もう1箇所のシーン。
火星への航行の途中で受信した救難信号。
「宇宙船」「救難信号」「動物実験系」とくれば展開は予想できますが、まさに予想通り実験動物が逃げ出して船内は地獄絵図。
これも宇宙SFでは定番ですけど、まさかそれまで挿入してくるとは、さすがにやりすぎではないですか??
Ad Astra | “Mayday Call" Clip
結局、物語はなに?
えーっとつまり、物語はどういうこと?
個人的な認識では、
・サージが発生して太陽系が危ない
↓ 宇宙軍幹部「ロイ少佐の父親が原因らしい」
↓ ロイ「月と火星経由で探しに行きます」
↓ 宇宙軍「実は、殺す予定でしたwww」
↓ ロイ父「仲間が反乱起こして殺した」
↓ ロイ「地球に帰ろう」
↓ ロイ父「いや、エイリアンを見つける」
↓ ロイ「核爆発利用して帰還だ!」
って感じでOKですか?
つまり、
・地球外知的生命体はいない
・サージの原因は多分リマ号
・よくわからんがデータだけ持ち帰還
なんか、果てしなくよくわからん。
「何のために行ったのか」の部分が極めて薄くなってしまっている上に、その過程の航路でも大したことが無かったので、「つまらない」の感想でも仕方ない気がします。
始めから終わりまでダラ~っとつまらない「宇宙ドキュメンタリー」を見せられて、挙句の果てに「何も分かりませんでした」でフェードアウトする最悪のパターンに近いですよ、これ。
それなりに楽しみにしていた分、とっても残念でした。
あとは...特に書くこと無い!
本当にスイマセン。
でも、マジで書くことがないんです!
他の映画なら「ここが面白かった!」とか「ここが印象的」とかの感想を書くんですけど、本作の場合は淡々と進んでいく上に物語性に魅力を感じることがなく、加えて結末のビミョーな形という、なかなかの作品だったのでね……。
強いて言えば、冒頭は良かったです。
「人々は知的生命体と資源を求めて宇宙に進出した」的な字幕の後にタイトルバックが来たりした部分とかは私は好みでした!
そうそう、なんで本作で「孤独や恐怖」が薄いことを非難する感想を書いたかの理由がまだでしたね。
最初は「恐怖とかを主題にした作品ではない」のだろうと思っていました。
しかし、終盤でロイ少佐が「孤独が終わるのが待ち遠しい」みたいな発言を急にするので、びっくりしたからです。本作にもそういう視点があったのだな、と。
ということで、本作の感想はこんな感じです!
楽しみにしていたので、より残念でした......。
2019年夏クールで『彼方のアストラ』というアニメが放送されていました。
これはめっちゃ面白かったです! 本作よりも内容も面白さも魅力も数倍高い作品です!
内容は、宇宙空間に放り出された高校生たちが、廃棄された宇宙船に乗って惑星を旅しながら生還を目指す、というストーリーです!
『彼方のアストラ』PV
最後まで読んでくださり、
本当にありがとうございました!!