【映画/アニメ】『イヴの時間』────アンドロイドを巡る倫理観,道徳観
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※ネタバレなし。
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【評価:4.8/5.0】
【一言】
アンドロイドを巡る倫理観,道徳観,法規範などを考えさせられるアニメーション。
アシモフの『ロボット3原則』を始めとする規定された論理的な視点と、主人公の感情的な視点の両者により、鑑賞者が思考できる点が素晴らしい!
そして、物語性もかなり濃く引き込まれます。
優しくて心温まり、感動的でどこか残酷で。
現代を生きる人に是非観てほしい作品です!
【目次】
【ストーリー】
各15分6話構成のWeb短編アニメを再編集した劇場版。
「未来、たぶん日本。“ロボット”が実用化されて久しく、“人間型ロボット”(アンドロイド)が実用化されて間もない時代。」(本編より)
高校生のリクオが家政婦アンドロイド、“サミィ”の行動履歴からたどり着いたのは「人間もロボットも区別しない」というルールの喫茶店『イヴの時間』だった。
予告動画
【作品データメモ】
監督:吉浦康裕
制作:スタジオ・リッカ
主題歌:Kalafina「I have a dream」(劇場版のみ)
キャスト:福山潤,野島健児 and more.
上映時間:1時間46分
日本公開:2010年3月6日
配給:アスミック・エース
公式サイト
【感想】
〈感想外観〉
人間型ロボット=アンドロイドの善悪、是非を考えさせられる素晴らしい作品だと思います。
私が大好きな作品で、もう何度も見ているアニメ映画です。
まず、SF作家アシモフの『ロボット3原則』を根底に敷いた世界観構成がしっかり定まっていて良かったです。
アンドロイドがある程度普及した日本を舞台に、法律や一般常識,道徳,倫理,思想,流行,風潮など社会の動きをしっかりと描くことで、私達がどのように受け取るべきかの、1つのリアルな未来を見ているようでした。
そして、物語を通して主人公がアンドロイドな対して様々な感情や思想を抱くわけですが、そこがとっても良いんです。
「ただの機械」として扱うのか、「人間の仲間」として接するのか、考えさせられます。
また、物語がとても感動的で、また予想外です。
ネタバレ的になるのであまり語れないのですが…………「人間からみるアンドロイド」と「アンドロイドからみる人間」の相違が描かれていて、とても感動的でした。
短編6作の再構成版なのでテンポよく物語が進んで行きます。
映像がとても刺激的(?)というか。
滑らかで丁寧なアニメーションで、特に一人称視点での映像や、回り込むカットなどがとてもスムーズです。
喫茶店「イヴの時間」に漂う優しさがとっても大好きです!
〈現実的な世界観〉
フィクションでありながら、とても考えさせられる作品になっている理由の一つに「現実的な世界観」と言うものがあると思います。
この世界観を構成する事が出来ている要素の1つにロシアのSF作家アイザック・アシモフの『ロボット3原則』があります。
第一条
ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。
第二条
ロボットは人間にあたえられた命令に服従しなければならない。ただし、あたえられた命令が、第一条に反する場合は、この限りでない。
第三条
ロボットは、前掲第一条および第二条に反するおそれのないかぎり、自己をまもらなければならない。
多くのSF映画による曖昧で感覚的なロボットの定義と違い、しっかりとした規則を用いる事で世界観に安定性が出ているように感じました。
そして、劇中に様々な倫理観や反対賛成の意見を盛り込むような形をとったりとできる限り現実的な日本の社会を描こうとしていると感じました。
フィクション作品でリアルな世界観を構築して物語を展開させていくことで、一種の思考実験のような雰囲気を感じました。
〈論理的に考える未来〉
何度も書いていますがアンドロイドを巡る様々な議論テーマと主題を綺麗に盛り込んだ世界観設定で、賛成派,反対派,依存派,拒否派……と色々な立場の意見を作中に登場させています。
だから、一方通行の啓蒙的な作品ではなくて、鑑賞者自身が是非を考える事が出来るのが一番良いところだと思います。
便利な道具なのか、遊んでくれる友達なのか、仕事をこなす機械なのか、寂しさを紛らわせる対象なのか。
差別的に扱うのか、人間と同等に扱うのか、排除対象なのか、そもそも機械だから感情移入するのが間違いなのか。
現代社会で溢れる政治,宗教,人種などの問題をアンドロイド版へ昇華させたような印象も受けました。思考実験的な描き方?とにかく鑑賞者に問うてるように感じました。
〈感情的に考える未来〉
上で書いたのは感情を排した、無機質で事務的な部分から鑑賞者にアプローチする部分でした。
こちらでは、感情面からのアプローチに触れます。
やっぱりアンドロイド問題に関しては倫理的・感情的な部分を抜くことは出来ないなぁ〜と心底思いました。
“人間型”ロボットなわけですから、感情を移入したくなってしまうものです。
そんな部分を主人公を通じて描いていました。物語作品としてやはり、ある程度は鑑賞者の考え方の方向を揃える必要があったのかもしれません。(物語によるリード?)
アンドロイドに感情はあるのか?
アンドロイドに“心”はあるのか?
どちらもずっとSF作品で描かれてきた主題だと思います。この作品からもそれは感じます。
そして、他の作品と違って「普段の生活の中のアンドロイド」を描いている分、より身近に考えられた気がします。
〈優しい物語〉
物語の内容はとても温かいものです。主題がアンドロイドという無機質的なものだからこそ、内容の温かさが目立つのかもしれません。
また、主な舞台が喫茶店という部分も大きく関係しているかもしれません。
人と人(アンドロイド)との距離感が一気に縮まるのが喫茶店だと思います。
Are you enjoying the time of EVE ?
このメッセージだけで物語の暖かさがイメージされませんか……?
〈映像と音楽〉
映像が滑らかで、斬新(?)です。
(自慢じゃないですが、)自分はそれなりにアニメを見ていると自負していますが、それでも珍しい映像表現だと感じました。
特に一人称視点でのシーンで室内を見回すようなカメラワークや、ぐるりと回り込むような映像、ズームアウトなどCGを活用した滑らかな映像が本当に綺麗でした。
音楽についても軽く触れます。
基本的には印象に残るということはないのですが、たった一場面、「喫茶店への入店シーン」で流れる音楽が印象的です。
新しい出会いを予感させるような、とても不思議な(?)BGMです。
こちらの記事、細かい世界観や用語の説明&考察がとてもいいです。
以降、映画本編のネタバレあり
【ネタバレあり感想】
〈序盤〉
サミィの行動ログを調べたリクオが不審なログを見つけ、辿って行くと喫茶店『イヴの時間』へ。
そこで帽子の女の子アキコに出逢う。
活発で明るくて良いですよね。彼女との会話で「イヴの時間」のルールやなんとなくの世界観が分かりました。
雨の日。
学校の廊下で見たのはアキコさん。この場面の衝撃と驚きが大きかったです。「えぇ!」となりましたよ。
「どう思っているか?」はアンドロイドから見た人間への疑問だったのですね。
〈前半〉
リクオ君と一緒に「イヴの時間」へ。
他のお客さんと触れ合いながら、少しだけ打ち解けた様子? チエちゃんに眼鏡を隠されて、探し回る。
ようやく見つけた眼鏡を掛けると……………サミィ。この場面を観ていて、驚きとショックがとても大きかったです。
でも家に帰って、サミィに「コーヒー、美味しくなった」って言えるリクオが偉くて優しかったです。
学校で。
ロボット3原則を暗唱し、教えられた意外な事実は「ロボットに嘘を禁じる法律はない」と言う事。確かに盲点です。
〈中盤〉
「イヴの時間」にて、男女カップルとの会話。
始めは私も理解できませんでしたが、なるほど、そういう誤解と混乱なのですね。
お互いにロボットだと認識していないが故の、人間みたいな普通の恋。
不法廃棄された浮浪ロボット。
必死に人間を真似ようとしている姿が滑稽だけど、この部分にも「人間に似せるアンドロイド」という主題が隠れているのかもしれません。
あとは、必死にコーヒーを飲ませないように止めるリクオ&マサキ君が面白い(笑)
最後、「誰かに名前を覚えておいて欲しかった」と言うナギさんの顔が辛かったです………。
〈後半〉
サミィとリクオを巡るピアノのエピソード。
アンドロイドのサミィが「リクオさんのピアノが好きで……」と芸術を理解して“好き”だと思考することに対して驚きました。 そして、それをこっそり練習して「イヴの時間」で弾くという感動的な場面。
リクオも、「お前が僕より上手くなるのが怖かった。でも………そんなのどうでもいいか」と前を向いてピアノを演奏し始めたシーンが本当ちウルッと感動しました。
マサキ君とテックスのエピソード。
まず、ロボットを嫌う彼に子のような過去があったのだと知りました。「裏切られた」って思うでしょうね………。
そして発生した「イヴの時間」の危機。テックスの機転が利いた対応が凄いですね!
とっさに状況を理解して、3原則と照らし合わせて、危険を理解するマサキ君。
最後、涙ながらに話そうとする2人と、途中で切られてしまう悲しさ………。
最後まで読んでくださり、
本当にありがとうございました!!